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Vol.1「心疾患の代表的症例と予防法」

教えて 矢作先生!

Q 親が心疾患の場合、子どもも心疾患にかかりやすいのでしょうか?

A 心疾患の原因となる高脂血症の一部は遺伝します。
日本人の約500人に1人が家族性高コレステロール血症です。

 心疾患の原因の1つ「脂質異常症」には、遺伝が関係するタイプのものがあります。特に、「家族性高コレステロール血症」は、LDL受容体(血液中のLDLコレステロール=悪玉コレステロールを受け入れる働きをもつ。LDL受容体が少ないと血液中のLDLコレステロール値が高くなる)が生まれつき少ないために発病するもので、日本人の500人に1人程度がこのタイプであることが分かっています。そのほか、遺伝によってコレステロールと中性脂肪が高くなる「家族性III型高脂血症」もあります。これらのタイプの方は、生活習慣とは関係なく、脂質異常症になりやすいと考えられています。家族性高コレステロール血症の場合、幼少期から悪玉コレステロールが高い状態が続くため、動脈硬化のリスクは桁違いに高くなります。親が家族性高コレステロール血症の場合は子へ遺伝している可能性が高い(確率50%)ので、早めに医療機関で検査・治療を受けてください。

 心疾患の中でも近年増加傾向にあると言われているのが、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患です。虚血性心疾患とは具体的にどのような病気なのか、どうすれば予防することができるのか、解説していきましょう。

虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の症状と原因

最大の原因は動脈硬化による心臓の酸素・栄養不足

 心臓は、私たち人間がこの世に生を受けてから今この瞬間まで、一時も休むことなく動き続けている非常に重要な臓器です。心臓を動かしている筋肉・心筋は1分間に約70回、1日では約10万回も収縮と拡張の動きを繰り返し、心臓から新鮮な血液を全身に送り出しています。この心筋に酸素や栄養素を供給しているのが、心臓の周りを取り巻く「冠動脈」という血管です。冠動脈が固くもろくなる「動脈硬化」が起こると血液の通り道が狭まったり、時には血栓ができて通り道がふさがってしまい、冠動脈から心筋に十分な酸素や栄養が送られなくなってしまいます。酸素や栄養不足になった心筋は痛みを発するだけでなく、心臓を十分に機能させることができなくなるため、心臓の機能が急速に低下し、手当が遅れると死に至ることも珍しくありません。これが「虚血性心疾患」の起こるメカニズムです。虚血性心疾患は、虚血(=血液循環が不足すること)の程度により、「狭心症」と「心筋梗塞」に大きく分けられます。

Point1狭心症

〈概要〉冠動脈の血液の流れが悪化し、心臓が酸欠状態に陥ることによって起こります。狭心症には大きく分けて、運動時・階段昇降時など発作の起こるタイミングがある程度パターン化している「安定型」と、タイミングが安定しない「不安定型」があります。「不安定型」は「安定型」に比べて冠動脈の狭窄が重い場合が多く、心筋梗塞に発展するリスクが高いと言われています。

〈症状〉発作時には胸の痛みや息苦しさ、みぞおちや耳に痛みを感じます。発作を繰り返す場合は、ニトログリセリンという薬で発作をある程度抑えることができますが、「不安定型」ではニトログリセリンが効きにくくなるケースも多く見られます。

Point2心筋梗塞

〈概要〉冠動脈にできた動脈硬化巣の破裂や血栓のためにそこから先の血管がほぼ完全に詰まってしまうことによって心筋が酸欠状態に陥り、一部が壊死してしまうことによって起こります。壊死部分が大きいと心臓の働きが極度に低下して心不全を発症、死に至るケースも珍しくありません。また壊死した部分が小さくても、不整脈を誘発することにより、致死的になることがあります。

〈症状〉突然に非常に強い圧迫感や激しい痛みが胸に起こり、冷や汗や吐き気を伴うこともあります。症状は10分以上続くことが多いですが、手当が早いほど治癒の可能性が高くなるので、「そのうち収まるだろう」と我慢せず、すぐに病院へ行くことが重要です。

動脈硬化の危険因子は「生活習慣病」「喫煙」

 では、心疾患を引き起こす動脈硬化とは具体的にどのようなもので、何が原因で起こるのでしょうか?

 動脈硬化にもいろいろなタイプがありますが、虚血性心疾患を引き起こすものとしてもっとも多いのは「粥状(じゅくじょう)動脈硬化」です。これは簡単にいうと、血管の内側に悪玉コレステロールや脂肪などが沈着して血管内が狭くなり、血液が流れにくくなる状態のことです。粥状動脈硬化の原因は完全には解明されていませんが、危険因子を多く持っている人ほど生じやすいことがわかっています。動脈硬化の危険因子としては、主に「脂質異常症」「高血圧」「糖尿病」といった生活習慣病と喫煙が挙げられます。

Point1生活習慣病

①脂質異常症 血液中に悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が増えすぎる病気です。増えすぎた悪玉コレステロールが血管の内皮を傷つけ、そこから悪玉コレステロールが血管内に入り込んで、脂肪でできた塊(プラーク)を作るとされています。悪玉コレステロール値が高いほど、動脈硬化のリスクが高まります。

②高血圧 高血圧状態が続くと、血管の内皮が傷つけられて、血管内にコレステロールが入り込みやすくなり、動脈硬化が進行してしまいます。また、高血圧の状態が長く続くと心臓が肥大し、疲弊して心不全に至ることもあります。

③糖尿病 慢性的な高血糖状態が続くと、血管が本来持っている動脈硬化を防ぐ機能が損なわれたり、活性酸素によって脂質が酸化したりするため、動脈が傷つきやすくなり、動脈硬化が進行します。また、インスリンの働きが低下して血液中に脂質が増えることも多くなります。

Point2喫煙

喫煙は肺がんや肺気腫等のリスクを増すばかりでなく、動脈硬化の進行にも著しい悪影響を与えます。特にタバコの煙に含まれる「一酸化炭素」は、善玉コレステロールを減らし、血管の内皮を傷つける原因となります。また「ニコチン」は、血管を収縮させるので、高血圧を助長してしまいます。 常習性・依存性が高いので1日でも早い禁煙をお勧めします。

心疾患予防の基本は生活習慣の改善と禁煙

適切な食事と運動で動脈硬化を防ぐ

 ここまで見てきたとおり、動脈硬化とそれが引き起こす心疾患予防の基本は、「生活習慣の改善」と「禁煙」です。是非この機会に、図1の項目を指針に、長期的視野に立って動脈硬化ひいては心疾患予防に取り組んでみてください。

動脈硬化予防に有効な食品選びのポイント

 生活習慣を改善する際、最も重視すべきなのは食事の改善です。動脈硬化の原因となる脂質や悪玉コレステロール、単純糖質、塩分の摂取を上手にコントロールし、1日の摂取カロリーをオーバーしないように気を付けましょう。ただしストイックになり過ぎる必要はありません。食材の特性を知って適切に選べば、四季折々の食材を楽しみながら食事改善を図ることも可能です。「食事制限=つらいもの」という概念を取り払って、楽しみながら続けていくことが大切です。
[1日の摂取エネルギー量の目安]
エネルギー摂取量(Kcal)=
標準体重(kg)×25~30(kcal)
急に摂取量を減らすと長続きしにくいので、まずは現状から10%程度減らすことから始めてみましょう。エネルギー配分は脂肪20~25%、炭水化物を50~60%とします。

矢作 直也(やはぎ なおや)

筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科准教授。検体測定室連携協議会代表者。1969年東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究会、東京大学大学院特任准教授を経て2011年より現職。医師として糖尿病の診療に当たりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「検体測定室連携協議会(ゆびさきセルフ測定室)」を展開するなど糖尿病学会のホープとして活躍中。

矢作 直也