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Vol.2「心疾患の治療法」

教えて 矢作先生!

 日本人の死因としてがんに次いで2番目に多い「心疾患」。その患者数は年々増加傾向にあり、平成26年の時点で172万9000人にも上っています。残念ながら心疾患を発症してしまった際の主な治療方法について解説します。

狭心症の初期治療は薬物療法が基本。重度の場合は手術も

主に使用される治療薬

 一般的には硝酸薬、β遮断薬やカルシウム拮抗薬の中から2、3種類が併せて処方されます。また冠動脈内の血栓形成を抑え、心筋梗塞症を予防するためのアスピリンなどの抗血小板薬を少量使用します。また、動脈硬化の危険因子(高脂血症、高血圧症、耐糖能異常など)がある場合には、それらに対する治療もしっかり継続します。特にコレステロールを低下させるスタチン薬の効果は高く、頻用されます。

Point1硝酸薬(ニトログリセリンなど)

狭心症と診断されると、まず処方されるのは硝酸薬、主にニトログリセリンです。ニトログリセリンには心筋に血液を送る冠動脈を拡張して血流を増加させる作用があり、発作時に錠剤を舌の下に含んでゆっくり口の中で溶かすと、口の中の粘膜から吸収され、痛みが数分で緩和されます。錠剤だけでなくスプレータイプのものもあるので、主治医に相談して使い勝手の良いものを処方してもらうとよいでしょう。また持続的な効果が得られるタイプの内服薬や貼付薬もあります。

Point2β遮断薬

交感神経の活動を抑えることによって血圧を低くし、脈拍数を少なくして、心臓の負担を軽減する薬です。血圧を下げたり、心拍数や心筋収縮を抑える働きがあり、心筋が必要とする酸素の消費量を減らすことで狭心症発作を防ぐ効果があります。

Point3カルシウム拮抗薬

冠動脈を広げて血流をよくする働きと、全身の血管も同時に広げて心臓の負担を軽くする働きがあります。

その他の主な治療法

 残念ながら薬を使ってもあまり症状に改善が見られない場合は、手術やそのほかの治療法を検討します。

Point1冠動脈形成術(PTCA)

動脈硬化で狭窄した冠動脈を広げる手術で、「風船療法」とも呼ばれます。具体的には、先端に風船(バルーン)のついたカテーテルを冠動脈まで送り込み、冠動脈の狭窄部で風船を膨らませることによって動脈を広げる治療法です。風船でも十分に冠動脈が広がらない場合は、特殊な金属を網の目状にした筒(ステント)を入れ、内側から血管を補強する方法を採用することもあります。

Point2冠動脈バイパス術

風船療法ができない場合によく行われる手術で、狭くなった心臓の冠動脈に、体のほかの部分から採ってきた血管をつなげて迂回路を作ります。バイパスには足の静脈か、胸、腕、胃の動脈を使います。

発作直後の処置が重要!心筋梗塞の治療法

  心筋梗塞で亡くなる人の半数は、発症後1時間以内に亡くなっています。発作が起きたらすぐに救急車を呼び、なるべく早く医療機関で治療を受けてください。なお、心筋梗塞で亡くなる人の多くが、心室細動という一種の不整脈を起こし、心臓が血を送り出す役割を果たせない状態に陥っています。この状態が数分続くとAEDの使用、心臓マッサージといった心肺蘇生法を施さない限り、死亡する可能性が非常に高くなります。逆にいうと、発作時に周囲に心肺蘇生法の心得のある人がいれば助かる可能性が高くなるということです。いざというときのために、家庭や職場等で心肺蘇生法の訓練をしておくことが非常に大切です。

Point1再灌流(さいかんりゅう)療法

急性心筋梗塞に対して最も重要な治療は、閉塞した冠動脈を再び開通させる「再灌流療法」です。具体的には血栓を薬で溶かす「血栓溶解療法」か、前述の風船療法によって血管を開通させる治療法で、発症後6時間以内に行えば梗塞の範囲が縮小することが確認されています。

Point2心臓リハビリ

退院までは、医師や看護師等の指導のもと、「心臓リハビリ」に取り組みます。心臓リハビリは、1日も早い社会復帰や再発予防を目指して行われる運動療法・食事療法等のことで、心筋梗塞や狭心症の発症日、もしくは心臓手術の日から6ヶ月間は、健康保険の適用となります。

予防に勝る治療なし!生活習慣は、バランスの良い食事、
適度な運動、禁煙が基本

 虚血性心疾患の背景には生活習慣病があることもしばしば見受けられます。生活習慣上の予防法の基本は①食事療法、②運動療法、③禁煙です。

Point1食事療法

食事療法の主なポイントは次の通りです。

  • 伝統的な日本食を基本にする
  • 過食を控え標準体重を維持する
  • 肉の摂取を控え、魚類、大豆製品の摂取を増やす
  • 野菜、未精製穀類、海藻の摂取を増やす
  • 食塩を多く含む食品の摂取を控える

肥満を解消するためには:エネルギー摂取量(kcal)=標準体重(kg)×25~30kcalが目安。

Point2運動療法

運動不足で持久的体力が低下した人ほど、また日常の身体活動量が低い人ほど動脈硬化性疾患を含むあらゆる疾患による死亡率が高いことが分かっています。散歩や水泳など軽い運動を最低でも週3回以上、計180分以上行うことを習慣づけましょう。ただし心疾患の症状がある方は、運動の種類や量について主治医に相談した上で行って下さい。

Point3禁煙

喫煙は、動脈硬化性疾患の発症と心疾患による死亡のリスクを大幅に増加させる危険因子です。同時に糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームの発症リスクを上げることもわかっています。喫煙習慣のある人は速やかに禁煙してください。禁煙により動脈硬化性疾患による死亡リスクを50~60%も減らすことができます。

矢作 直也(やはぎ なおや)

筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科准教授。検体測定室連携協議会代表者。1969年東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究会、東京大学大学院特任准教授を経て2011年より現職。医師として糖尿病の診療に当たりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「検体測定室連携協議会(ゆびさきセルフ測定室)」を展開するなど糖尿病学会のホープとして活躍中。

矢作 直也