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Vol.2「高齢期*1への心構え」

教えて 矢作先生!

Q「骨粗しょう症になったら、どんな治療を受けるのですか?」

A 薬物治療が中心です

 骨粗しょう症は、骨の強度が低下して、骨折しやすくなる骨の病気です。骨は骨吸収(古い骨を壊す働き)と骨形成(骨を作る働き)を繰り返して、新陳代謝をしますが、骨粗しょう症になってしまうと、骨形成が骨吸収のスピードに追い付かないため、骨がスカスカになってもろくなってしまうのです。骨粗しょう症で骨がもろくなると、ちょっと手足をぶつけたり、つまずいたりしただけのほんのわずかな衝撃で、骨折してしまうことがあります。女性の場合、骨の吸収を緩やかにする女性ホルモンが閉経を機に大きく減少するので、高齢になるほど骨粗しょう症のリスクが高まります。

 しかし、骨粗しょう症は決して治らない病気ではありません。最近では、さまざまな方法で骨の形成を促進する薬が次々に開発されているので、症状や病気の進行具合に適した薬を選び、服用することで症状を改善することが可能です。とはいえ、骨粗しょう症対策の要は、やはり毎日の生活習慣です。カルシウムやビタミンなど骨の形成に役立つ栄養をしっかり摂り、カフェインやアルコールの多飲を控えるなど食生活には十分配慮してください。また、骨は負荷がかかるほど強くなる性質があるので、毎日適度な運動を行うことが大切です。

 100歳以上の人口が6万人を超え、「人生100年時代」がいよいよ現実味を帯びてきました。長くなった高齢期をできる限り健康に自立して過ごすためには、どんな心構えを持っておくべきなのか? 高齢期に備えて、今からどんなことができるのか?について紹介しましょう。
*1 65歳以上(厚生労働省ホームページより)

平均寿命と健康寿命

 厚生労働省の調査によると、日本の100歳以上の高齢者の数は、1981年に初めて1,000人を超え、1998年には1万人、2012年には5万人を超えました。そして、2017年9月現在、100歳以上の高齢者数は過去最高の6万7,824人(前年+2,132人)に上っています〈図1〉。今後も100歳以上の人口は増え続けることが見込まれており、2025年には13万3,000人、2035年には25万6,000人に上ると予測されています。文字通り、「人生100年時代」の到来です。当然、平均寿命も延び続けており、2016年の日本人の平均寿命は女性87.14歳、 男性80.98歳と、男女ともに過去最高を記録しています〈図2〉。

 しかしその一方で、2013年の「健康寿命」(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は女性が74.21歳、男性が71.19歳で、平均寿命との開きが女性は12年、男性は9年以上あることがわかりました〈図3〉。つまり、何らかの健康上の問題があるために自立した日常生活を送ることが困難な状態になってしまう高齢者が多いということです。せっかく長生きできたとしても、寝たきりや要介護の状態になってしまい、自分の望むような生活が送れないのは、非常に残念なことです。そうならないためにも、これからの時代は「健康寿命」をいかに延ばすかが大きな課題となってきます。

〈図1〉 100歳以上高齢者数の推移/[出典]住民基本台帳による報告数(海外在留邦人を除く) 〈図2〉 平均寿命の推移/[出典]厚生労働省「平成28年度簡易生命表の概要」 〈図3〉 平均寿命と健康寿命の差/[出典]平均寿命:厚生労働省政策統括官付人口動態・保険社会統計室「簡易生命表」 健康寿命:「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会資料(2014年10月)」

中年期*2 に入ったら、病院との付き合い方を見直す

 そこでおすすめしたいのが、病院との付き合い方の見直しです。「病気になったら、病院に行って治療を受ける」でなく、「病気にならないために病院を活用する」という発想が必要です。特に自覚症状がなくても、定期的に検診を受けることによって、健康状態の変化に早く気付くことができ、早く治療を始めることができれば、病気の重篤化を防ぐことも可能です。健康診断などで要注意と指摘された項目(血圧や血糖値など)がある人は、その数値を定期的にモニタリングするようにしてください。

女性の場合は閉経後、急激に骨密度が低下して骨粗しょう症を発症し、身体能力が低下してしまうケースが多いので、骨密度の検査をこまめに受けることも大切です。「忙しくて病院に行く時間がない」という場合も、簡単な血液検査がその場で受けられる検体測定室(ゆびさきセルフ測定室*3:健康サポート薬局などに設置されています)のような民間の新しい検査サービスを上手に活用し、自分の健康状態を定期的にチェックする習慣をつけましょう
*2 45歳から64歳(厚生労働省ホームページより)
*3 http://navi.yubisaki.org


適度な運動習慣と社会参加で心身の健康を維持

 運動を習慣にすることも大切です。毎日適度に体を動かすことによって、老化による骨や筋肉の衰えの速度を緩やかにできることがわかっています。運動と言っても、急にマラソンや水泳など本格的なスポーツを始める必要はありません。簡単な体操をする、家の近所を散歩するなど軽い運動を無理なく続けましょう。

 また、心身の健康維持はもちろん、認知症予防のためにも心がけてほしいのが、できるかぎり社会との関わりをもって生活することです。特に男性の場合、現役時代は仕事中心の生活を送っていたために、退職後に地域で孤立したり、家に引きこもってしまいがちになるケースが珍しくありません。地域のボランティア活動に参加する、現役時代に身に付けたスキルを活かした社会貢献活動を始めるなど、自ら積極的に社会との関わりを保つようにしましょう。

ボランティア活動の有無と自立率/[出典]東京都健康長寿医療センター研究所

 健康寿命を延ばし、心身共に健康な高齢期を過ごすためには、医療の力に頼るだけでなく、できるだけ病気にならないように自らの健康と向き合い、健康状態を改善しようとする個々人の姿勢が非常に大切です。また、玉石混交の情報の中から、自身の健康に有益な情報を正しく取捨選択するための「健康リテラシー」(健康に関する情報を正しく理解、判断して活用できる力)を身に付けることも重要です。

まずは、自分がどんな高齢期を過ごしたいかを考え、それを実現するには何が必要か、何が足りないかを考えてみてください。そして、必要に応じて医療専門家のアドバイスやサポートを受けながら、一日も早く、来るべき高齢期への備えを始めましょう。


矢作 直也(やはぎ なおや)

筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科准教授。検体測定室連携協議会代表者。1969年東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究会、東京大学大学院特任准教授を経て2011年より現職。医師として糖尿病の診療に当たりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「検体測定室連携協議会(ゆびさきセルフ測定室)」を展開するなど糖尿病学会のホープとして活躍中。

矢作 直也

2018年9月作成