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Vol.1「肥満」

教えて 矢作先生!

 不適切な生活習慣の積み重ねから起きる生活習慣病。生活習慣病には糖尿病や高血圧症など、さまざまな症状がありますが、その多くに共通するのは「肥満」が本質的な原因であること。今回は、肥満の原因や生活習慣病との関連、そして予防法について矢作先生に伺いました。

Q. 肥満とは、どのような状態を指すのですか?

A.医学的には、BMI(Body Mass Index、体格指数)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)が22を適正体重、25以上を肥満と定義しています。しかし、ここで注意すべきは、肥満と肥満症は違うということ。BMIが25を超えていても健康障害が何もなければ、単に外見上太って見えるというだけで、病気ではありません。一方、たとえBMIが22であっても健康上、過栄養に起因する何らかの問題がある場合は、治療や対策が必要になります。例えば、肥満度の高い人の方が糖尿病の発症率が高いのは事実ですが、BMIが正常値でも糖尿病を発症している方は珍しくありません。

したがって、「自分は痩せているから健康だ、生活習慣病とは無縁だ」と考えるのは誤った認識です。見た目や自覚症状だけで自己判断せず、定期的に血液検査を含む健康診断を受けることが大切です。

Q. 肥満と生活習慣病には、どんな関係があるのですか?

A.肥満には皮膚と筋肉の間に脂肪が溜まる「皮下脂肪型(洋梨型)」と内臓周辺に溜まる「内臓脂肪型(リンゴ型)」があります。この二つは同時進行するのではなく、体内で余った脂肪がまず皮下脂肪になり、皮下に収まりきらない脂肪が内臓脂肪になると考えられています。つまり、生まれつき皮下脂肪のキャパシティの少ない人は、内臓脂肪が溜まりやすいということです。内臓脂肪型肥満の人は生活習慣病になる可能性が高いこともわかっています。内臓脂肪型肥満は脂肪肝を伴いやすいのも特徴の1つです。

また、血中脂質や血糖値が高くなりやすいことに加え、血圧も上昇傾向となり、これらがすべて動脈硬化の危険因子となります。このため、内臓脂肪型肥満は注意が必要です。なお、内臓脂肪型肥満と診断される目安は、へその位置のウエストサイズが男性85cm、女性90cmですが、前述のように皮下脂肪の厚さには個人差がありますので、あくまで目安です。

Q. 肥満予防・解消に有効な方法は?

A.体重コントロールの基本は、適切な食生活と運動習慣です。ただし、絶食や単品ダイエットなど極端な食事制限は長く続けるのは難しく、健康への影響も懸念されます。例えば、近年流行している糖質制限ダイエットは短期的には減量効果はありますが、長期的な健康への影響は検証されていません。まずは年齢やライフスタイルに応じて食べる量を見直し、低糖質・低脂質・低塩を心がけてください。また、適度な運動を毎日続けることも非常に大切です。

一般的な運動で運動時間中に消費されるカロリー自体はそんなに多くなくても、運動をしたことによる好影響は、運動後の長時間にわたって及ぶため、トータルの代謝改善効果は相当大きくなります。また運動が体全体に及ぼす健康効果は血流促進、睡眠の質の向上、認知機能の改善、便通の促進、骨密度増加など多岐にわたります。まずは、階段をなるべく使う・散歩をするなど、無理なく体を動かすことを毎日の習慣にしましょう。適切な食事と適度な運動で肥満を防ぐことが、生活習慣病の予防に繋がります。

矢作 直也(やはぎ なおや)

筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科准教授。検体測定室連携協議会代表者。1969年東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究会、東京大学大学院特任准教授を経て2011年より現職。医師として糖尿病の診療に当たりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「検体測定室連携協議会(ゆびさきセルフ測定室)」を展開するなど糖尿病学会のホープとして活躍中。

矢作 直也

2019年4月作成