File 064
Vol.3「高血圧症」

教えて 矢作先生!

 不適切な生活習慣の積み重ねから起きる生活習慣病。糖尿病や高血圧症など、さまざまな症状がありますが、その多くに共通するのは「肥満」が本質的な原因であること。今回は、高血圧症の症状と治療法、そして肥満との関係について、矢作先生に伺いました。

Q. 高血圧症とはどのような病気?

A. 血圧とは、血管の中を血液が流れる際に、血管の壁にかかる圧力のことです。健康な人の血圧は、収縮期血圧(心臓が縮んで血液を送り出したときの血圧、最大血圧)が140mmHg未満、拡張期血圧(心臓が拡張したときの血圧、最小血圧)が90mmHg未満とされていて、このいずれかを上回った状態を高血圧症といいます。

ただし、糖尿病もしくは蛋白尿がある慢性腎疾患(CKD)を合併する高血圧の場合は、収縮期血圧130mmHg以上および拡張期血圧80mmHg以上を臨床的に高血圧と判断します。高血圧症を放置しておくと、血管壁が弾力性を失って傷つき、脳梗塞や脳出血、動脈硬化など深刻な合併症の危険因子となってしまいます。高血圧症自体には特に自覚症状がないため本人が症状に気づきにくく、知らず知らずのうちに症状が進行してしまうことも珍しくありません。このため、高血圧は別名「サイレントキラー」(静かなる殺人者)とも呼ばれています。

Q. 太っていると高血圧症になりやすい?

A. 一般的に肥満の人のほうが、高血圧になりやすいと言われています。はっきりした原因はわかっていませんが、肥満になると血圧を高める交感神経の活動が活発になりやすいことが指摘されています。また、高血圧の親の子どもは高血圧になりやすい傾向にあります。これは体質的な遺伝だけでなく、親と似た生活環境や習慣(塩分摂取量が多い、濃い味の食事を好む、運動不足気味など)であることが理由です。高血圧の家族がいる人は、減塩と肥満防止に務め、定期的に血圧を測定する習慣をつけましょう。ただし、血圧はいろいろな条件で変動します。家庭や職場などでは正常血圧である人が、病院では緊張して血圧が上がることがあります。高血圧傾向にある人は、時間帯をずらして測定・記録し、医師の診断を受けるようにしてください。

Q. 高血圧の治療法を教えてください。

A. 高血圧の治療は、減塩、運動、肥満解消などの生活習慣の改善が基本です。特に塩分の摂取を控えること、過食を避けて肥満を解消することが欠かせません。調理に塩を使いすぎない、汁物を全部飲まないなどして、徐々に塩分が少なくても満足できる食事に慣らしていきましょう。

もちろん適度な運動を日常的に行い、体重コントロールに努めることも大切です。それでも血圧が下がらない場合は薬(降圧剤)による治療を開始します。ただし、血圧が非常に高い人、糖尿病や心臓病の人など、すぐに薬による治療を開始しなければならない人もいます。降圧剤は、生活習慣の改善によって血圧が正常域に戻った場合は、医師の判断で服用をやめることができます。医師と二人三脚で根気強く治療に取組むようにしてください。

※Sacks FM.et al:N Engl J Med 2001より
米国で行われたDASH-Sodium研究の結果、減塩による降圧効果には個人差があるが、平均すると食塩を1 日1 g減らすごとに、高血圧の人で上の血圧は約1 ㎜Hg 、下の血圧は約0.5㎜Hg 下がり、正常血圧の人はその半分くらい下がることがわかった。

矢作 直也(やはぎ なおや)

筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科准教授。検体測定室連携協議会代表者。1969年東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究会、東京大学大学院特任准教授を経て2011年より現職。医師として糖尿病の診療に当たりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「検体測定室連携協議会(ゆびさきセルフ測定室)」を展開するなど糖尿病学会のホープとして活躍中。

矢作 直也

2019年7月作成