File 065
Vol.4「動脈硬化症」

教えて 矢作先生!

 不適切な生活習慣の積み重ねから起きる生活習慣病。糖尿病や高血圧症など、さまざまな症状がありますが、その多くに共通するのは「肥満」が本質的な原因であること。今回は動脈硬化症と肥満の関係、治療法について矢作先生に伺いました。

Q. 動脈硬化症はどのような病気?

A. 動脈硬化とは、心臓から全身に血液を運ぶ血管(動脈)の内側にコレステロールの塊(プラーク)が出来て血の通るスペースが狭くなったり、血管の弾力がなくなってもろくなったりして、機能が低下する病態の総称です。動脈硬化は誰にでも起こる血管の老化現象の1つですが、その進行度合いには個人差があります。

動脈硬化が進むと血管にできたプラークが破裂して血栓になって血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重篤な病気を引き起こしてしまいます。つまり、動脈硬化を予防することが、心筋梗塞等の病気の予防に繋がるということ。しかし、動脈硬化そのものには自覚症状がほとんどないため、心筋梗塞や脳梗塞を起こして初めて動脈硬化症であることに気づくケースも珍しくありません。

Q. 動脈硬化と肥満の関係は?

A. 動脈硬化というと「高コレステロールが原因」というイメージを持つ人が多いようですが、実は動脈硬化には、肥満(主に内臓脂肪型肥満)、高血圧、高血糖、脂質代謝異常(中性脂肪や悪玉コレステロールが多い状態)など、さまざまな危険因子が関係していて、これらの危険因子が重なって起きるケースも多いです。中でも、他の危険因子の原因にもなっている肥満には注意が必要です。

肥満により内臓脂肪が多くなると、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が増えてプラークができやすくなり、動脈硬化が進むきっかけとなってしまいます。また、内臓脂肪が多い状態を放置していると、高血圧や高血糖になって、血管の壁が傷つきやすくなり、動脈硬化が進んでしまうこともわかっています。

Q. 糖尿病の治療法を教えてください。

A. 治療には、一般的に血液をサラサラにする薬や血管を広げて血液を流れやすくする薬が用いられますが、同時に、生活習慣の改善が欠かせません。特に食事の見直しは非常に重要で、血液中の脂質を増やす動物性脂肪の摂り過ぎや、血圧を上げる塩分の摂り過ぎに注意し、野菜をメインにバランスの良い食事をとるよう心がけましょう。

また、適度な運動を毎日の習慣にすると、減量効果が期待できるだけでなく、血流が促進され、動脈硬化や高血圧・糖尿病などの改善にも役立ちます。ただし、すでに動脈硬化の症状が進んでいる場合は、いきなり運動を始めると心臓に急激な負担をかけてしまいます。急にジョギングなどハードな運動を始めるのは避け、散歩やラジオ体操など軽い運動から始めるようにしてください。そして、すべての生活習慣病について言えることですが、動脈硬化の予防・治療の観点からも、喫煙は絶対にさけるべきです。自分でやめられない場合は喫煙外来を受診し、必ず禁煙するようにしてください。

出典:
Lancet. 2014 Mar 22;383(9922):1059-66.
Association between change in daily ambulatory activity and cardiovascular events in people with impaired glucose tolerance (NAVIGATOR trial): a cohort analysis.

矢作 直也(やはぎ なおや)

筑波大学医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科准教授。検体測定室連携協議会代表者。1969年東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究会、東京大学大学院特任准教授を経て2011年より現職。医師として糖尿病の診療に当たりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「検体測定室連携協議会(ゆびさきセルフ測定室)」を展開するなど糖尿病学会のホープとして活躍中。

矢作 直也

2020年1月作成