「AI時代への備え——データ、AI、カルチャーをどう整えるか」
Ab Initio Software LLC. CTO スティーブン・ブロブスト氏
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オリックス生命保険株式会社 専務取締役兼執行役員 経営企画本部管掌 飯田 英人 対談
当社は、第11次中期経営計画の成長戦略を支える柱として「トランスフォーメーションのさらなる推進」を掲げています。市場変化や人口減少による働き手不足に備え、持続的な成長を実現するためには、既存の枠にとらわれず新たな価値創造へ挑戦する姿勢が欠かせません。その中核テーマの一つが「AIの活用」と、それを支える「データの利活用」です。自律化するAIを最大限活用するためには、AI Readyなデータを整備することが不可欠です。また、お客さまや募集人さんへの提供価値向上を支える基盤として、ビジネス部門が自ら必要なデータに迅速にアクセスできる環境を整備することで、日々の業務時間の効率化はもちろん、新たな価値を創造すべく活用を促します。
このデータに関する取組みを加速するため、当社は大規模データ処理基盤分野で世界的評価を持つAb Initio社と提携し、全社的なデータ基盤構築を推進しています。こうした中、2025年12月11日、データ利活用とAI技術の最前線を走り続けてきたAb Initio社CTOスティーブン・ブロブスト氏と、当社トランスフォーメーションを牽引する飯田英人専務が対談しました。米国で進むAIエージェントの進化、効果的なデータ基盤整備、そして組織にAI活用を根付かせる文化づくりまで、幅広いテーマで議論が交わされましたのでご紹介いたします。
Ab Initio Software LLC. CTO スティーブン・ブロブスト氏
マサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピュータサイエンスの大学院課程を修了し、修士課程と博士課程では高性能並列処理を研究。ハーバード大学とMITの共同研究によりMBAを取得。データ管理と機械学習に関する特許を数十件取得し、数百件の論文を発表。バラク・オバマ大統領の最初の任期中は、大統領科学技術諮問委員会の委員に任命され、米国政府のビッグデータ戦略の策定に携わり、2014年には米国で第4位のCTOにランクされた。
オリックス生命保険株式会社 専務取締役兼執行役員 経営企画本部管掌 飯田 英人
1996年国内生保に入社。営業支社および本社での営業推進業務を経験。その後、買収・合併等を経て外資生保に20年近く勤務し、保険商品の企画・開発や収益管理、営業社員チャネルの販売戦略等を担当。2018年オリックス生命に入社し、主に会社全体を俯瞰する立場で経営戦略の企画・推進を管掌。経営企画部長、執行役員経営企画本部長などを経て、現在は専務取締役兼執行役員(経営企画本部管掌)。社内のトランスフォーメーションも主導。
目次
- オリックス生命の取組み
- 進化を続けるAIエージェント
- 率先垂範と全員参加で進むAI活用
- 対談を終えて 飯田 英人より
オリックス生命の取組み
飯田:本日はありがとうございます。まず当社の取組みについてお話させてください。オリックス生命ではAIとデータを中心にした全社的なトランスフォーメーションを進めています。
最初は、定型業務の自動化・効率化から取組みを進め、その先には引受・支払査定や受電対応といった高度な業務の自動化、さらにはお客さまや募集人さんへの提供価値を高める取組みへ広げていこうとしています。
そのために重要な要素となるのが「データ基盤の構築」だと考えています。これはビッグデータを活用するためのインフラであり、急速に進化し自律化するAIの活用を推進するうえで不可欠な要素です。データ基盤を整備することで、さまざまな部署の社員が必要なときにデータへアクセスし、そこから価値を生み出せる状態を目指しています。
(対談時投影資料より抜粋)
進化を続けるAIエージェント
ブロブスト:データ基盤を中心に据えているこの戦略は、とても良い方向性だと思います。
データとAIの話といえば、米国ではAIエージェントの議論が盛んに行われており、保険ビジネスも大きな転換点を迎えるのではと言われています。
今後はお客さまが自分のAIエージェントと対話し、「自分に合う保険はどれ?」と尋ねれば、AIが商品比較し、最適な提案をしてくれるようになるでしょう。
そして次の段階になると、お客さまのAIと保険会社のAIが直接やり取りをし、契約まで行う。つまり、AIだけで完結していく世界となります。
ただし、すぐに人が不要になるわけではなく、しばらくの間は従来の営業スタイルが残るでしょう。それでもいつかは、これまでの「人との信頼関係を中心にした営業」から、「AIによる合理的で効率的な営業」へと、業界全体が大きくシフトしていくことは避けられません。
飯田:当社でも、法人・個人とマーケットがありますが、特にリテールのマーケットはそうかもしれませんね。AIエージェントが保険提案まで担うようになる未来では、データの質や構造がますます重要になると感じます。
その前提となるデータ基盤についてですが、AIの進化に伴い、その構築の方法や必要性などについて、考え方が変わっていく可能性はありますか。
ブロブスト:“AIはデータを必要とする”だけでなく、“データもAIを必要とする”時代になっています。
この話は最近インドで講演した際にも大きな反響がありました。従来は人が大量の時間を使ってデータ加工を行ってきましたが、最近はAIが未加工のデータを読み取り「これはお客さま情報」「これは査定関連データ」などと推測し、整理方法まで提案できるようになっています。整える段階でもAIが役に立つようになり、AIとデータが相互に高め合う関係へと変化し始めています。
率先垂範と全員参加で進むAI活用
飯田: AI活用を進めるためにも、土台の整理が欠かせないというわけですね。
貴社は新しいものに挑戦する風土があると感じており、AIも積極的に活用されているのではと思いますが、企業としてこうした新たな取組みを広げるためには、どのようなマインド・風土の醸成や進め方が必要になるのでしょうか?
ブロブスト:前提として、AIを一部の専門部署だけが使うのではなく、組織全体で活用していくことが欠かせません。
生成AIは25年前のインターネットと同じ規模の変革をもたらすため、対応の遅れは企業の存続に影響します。どのAIを使うかではなく、どれだけ早くAIを使い、短いサイクルでアップデートしていくかが重要です。これからは「すでにAIを活用している企業」「これから活用する企業」「消滅する企業」の3つしかなく、AIの活用力が企業の生命線になることが明白です。
では、そのためにどんな組織づくりが必要か。鍵になるのは、AIが自然と使われる“土壌づくり”です。
当社で一番効果があったのは、経営層や上司が日常的にAIを使い、その姿を部下に見せる「率先垂範」です。上位層が自然にAIを使っているだけで、「使うのが当たり前」という空気が組織全体に広がり、抵抗感が消えていきます。
また、社員が実務で使い続けられるようにする支援策も欠かせません。当社では、営業向けのAI活用ワークショップを開催し、社内の専門家に相談できる「ギルド」を設け、成功事例を共有することで前向きな文化を醸成しています。最後にお伝えしたいことは、AIが仕事を奪うのではなく、AIを使える人がAIを使えない人の仕事を奪うということです。AIは恐れるものではなく、人の力を増やす道具なので、積極的に活用してください。
対談を終えて 飯田 英人より
今回の対談を通じ、あらためて感じたのは、かつてインターネットがすべての仕事の基盤となったように、AIも“使うことが当たり前”の時代に変わりつつあるということです。AIを使わないことこそが最大のリスクであり、これは私たち全員が意識すべきポイントだと思います。AIは人の仕事を奪うものではなく、私たちの可能性を広げ、仕事の質を高めてくれる力です。
一人ひとりがAIを使いこなすことで価値を生み出す。その積み重ねがオリックス生命の成長と企業価値の向上につながると考えておりますので、引き続きトランスフォーメーションを推進していきます。

