妊娠・出産にかかる費用、公的支援制度と備え方
妊娠中の健診費用や、普通分娩による出産費用には健康保険が利用できません。そのため、妊娠・出産費用に経済的な不安がある人もいるかもしれませんが、実は、妊娠や出産で利用できる公的支援制度は充実してきています。いつか子どもが欲しいと考えている場合は、今のうちから制度を知っておくと安心です。できる準備は早めにしておきましょう。
妊娠中にかかる費用
妊娠や出産は病気ではないため、妊娠中に通う妊婦健診には、健康保険が利用できません。では、全額自己負担になるかというと、実はそうではありません。各自治体が妊婦健診の助成を行っているからです。
妊婦健診の助成券は、お住まいの市区町村の窓口で受取れます。妊娠がわかると母子手帳を受取りに行きますが、その際に多くの自治体では、妊婦健診の助成券を一緒に渡しています。一般的な検診回数である14-15回分の妊婦健診費用と必要な検査費用などを多くの自治体が助成しています。
なお、妊婦健診の助成券は健診費用を全額負担してくれるわけではありません。妊婦健診の費用は病院によって異なるため、各自治体では、助成する健診費用に上限を設けています。差額が出た場合には差額分を自己負担することになります。
出産にかかる費用
出産には、普通分娩と異常分娩があります。普通分娩とは、自然なお産のことを言います。異常分娩とは、何らかのトラブルがあった場合やリスクを回避するために帝王切開手術、吸引分娩などの医療行為を伴う出産になります。
普通分娩の場合、医療機関で出産しても、健康保険が利用できません。一方、異常分娩に対する医療行為は健康保険が利用できます。そのうち帝王切開手術の場合には手術費用がかかりますし、普通分娩よりも入院期間が長くなります。
厚生労働省の調査によると、令和2年度の出産費用は全国平均で46.7万円でした。差額ベッド代などは含んでいない金額で、いずれにしても出産費用の平均額は年に1%程度ずつ上昇傾向にあります。
出産費用の推移
[出典]厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について」
出産費用を助成する出産育児一時金
出産にはまとまった費用がかかりますが、出産費用についても公的な助成制度があります。健康保険には、出産費用を助成する「出産育児一時金」があります。子ども1人につき50万円(産科医療補償制度の対象外の場合には48.8万円)が支払われます。
出産育児一時金の「直接支払制度」を利用すると、健康保険から医療機関に直接、出産育児一時金が支払われるので、立替払いがいらなくなります。差額がある場合は、不足分だけを医療機関に支払うことになります。ただし、医療機関によっては直接支払制度を利用できないこともあるため、事前に確認しておきましょう。
妊娠・出産のトラブル
妊娠・出産はトラブルが起きてしまうことも少なくありません。
妊娠中にありがちなトラブルには以下のようなものがあります。状況によっては、母親と赤ちゃんの安全のために入院して治療を受けることになります。
妊娠高血圧症候群
妊娠時に高血圧を発症することを妊娠高血圧症候群と言います。妊婦さんの約20人に1人に発症します。母親と赤ちゃんともに、とても危険な状態になることがあります。
切迫流産
流産の一歩手前の状態になることを切迫流産と言います。赤ちゃんがまだ子宮内に残っているため、切迫流産は妊娠を継続できる可能性があります。
切迫早産
早産となる危険性が高い状態を切迫早産と言います。
[出典]妊娠高血圧症候群から切迫早産までは公益社団法人 日本産科婦人科学会「産科の病気」より
帝王切開手術による分娩
普通分娩が難しい場合には、帝王切開手術での出産となります。帝王切開は、子宮にメスを入れて、手術で赤ちゃんを出産する方法です。
帝王切開による分娩は、一般病院における分娩の27.4%(一般診療所における分娩では14.7%)を占めています。一般病院では、4人に1人以上の赤ちゃんが、帝王切開で生まれていることになります。
[出典]厚生労働省 令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況
吸引分娩
お産が長引いた場合や赤ちゃんが危険な状態になった場合に、吸引カップを使用して赤ちゃんの頭を引っぱる方法です。赤ちゃんの頭にたんこぶのような跡ができる場合がありますが、通常は数日で自然に消えます。
妊娠や出産には、医療保険での備えが重要
健康保険が使えない妊娠や出産には、公的な支援制度があります。しかし妊娠中や出産時には、入院や手術のリスクが高まり、想定以上の費用がかかる場合もあります。
妊娠中は医療保険に加入ができなかったり、加入できても「異常妊娠・異常分娩(帝王切開を含む)は保障対象外」という条件がついたりする可能性があります。妊娠・出産のトラブルに伴う費用に備えるためにも、将来子どもがほしいと考えている場合は早めに医療保険を検討しておきましょう。